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【決勝】井山─首藤

第2回大和証券杯ネット囲碁グランドチャンピオン戦準決勝
●井山裕太八段
○首藤 瞬六段
日時 : 2009.3.21
結果 : 252手完、黒半目勝ち

第2回グランドチャンピオン決勝戦には、井山裕太八段と首藤瞬六段、2人の若手が名乗りを上げた。
井山八段の紹介はもう不要だろう。前回グランドチャンピオン戦の覇者であり、将来の日本碁界を担うネット碁世代のヒーローだ。首藤六段は若手有望株の1人で、リーグ入りにあと一歩に迫っている実力派。
大熱戦となった決勝戦を、井山八段の自戦解説で紹介する。


総譜(1〜252)

――お疲れさまでした。優勝おめでとうございます。
「すばらしいメンバーが集まったグランドチャンピオン戦で連覇をすることができて、自分でも驚いています。この碁、最初の方はまあまあ、うまく打てたんじゃないか、と思っていたんです。でも、途中で凡ミスをしてしまい、すっかりダメにしてしまいました。勝てたのは本当に幸運です」

局面図1
――立ち上がりはポピュラーな布石でしたね。局面図1、白1ツメから碁が動きはじめました。
井山「ここは白1から持っていきたくなるところでしょうね。黒2、4を打ってもらって、自然に白3、5と下辺を広げる調子です。白1でaヒラキもないわけではありませんが、ちょっと気がない」
――黒8カケの場面が序盤戦のポイント。大盤解説会では、白9ノビ切りは問題だろう、と小林九段が指摘されていました。黒10オサエの形が良く、早くも黒が一本取った、と。白は9以外の手を考える必要がありそうですね。




変化図1
変化図1の白1切りはどうでしたか?
「白1切りには黒2ツギのつもりでした。黒からaのオサエ、bノビ、c切りといった味を強調して、左下白のダメを詰めておきたいんですね。のちに白模様へ打ち込んだときには大いにモノを言いそうです。これは白がおもしろくないでしょう。そこで僕なら、










変化図2
黒▲カケには白1カケツギで打ちたかった。それでも黒2の戻りくらい。白3トビで、実戦よりも白模様は味がいい。今度は黒aと打ち込む気になるかどうか。白bにツメられて、黒のシノギがちょっと苦しいからです。白1カケツギによって、黒は中央に出にくいですから。なにか別の手段を講じることになるでしょう」










局面図2
――黒の打ち込みを迎えて、局面図2、白1はa断点を気にしたものでしょうね。かねて狙いの黒2オサエに、白3ハネとは手厚い。
「のちに黒bワタリが残ったので、黒4から6とワタっていてもが悪くないでしょう。局面図2の白3で、













変化図3
白1下ハネも考えられないわけではありません。ただ、黒3から8まで楽にサバけそうですね。実戦との比較はわかりませんが、白模様を根こそぎ荒して、やはり黒が悪い気はしませんね。なお、局面図2の黒8で、













変化図4
黒1オサエは白2から8とコウを挑まれます。白にはaのコウ材があるので、これは黒がまずそうです」

















局面図3
――局面図3、左上に戦場は移ります。白△に対して黒1、3はサバキの常套手段ですね。
「黒▲で、5スベリに先行することもチラッと考えたんですよ。でも、白から▲への切りも大きいですし、そこまで足早に行かずとも、という気分でした」
――黒9カケツギでしっかり治まったあたりは、井山八段の好みでしょうね。
「そうですね。白10カケには黒11、13で生き形。a、bの断点を残して、のちの楽しみとします。黒15ヒラキに回っては、黒が打ちやすいと思っていました。普通なら黒9で左辺白を攻めるために、



変化図5
黒1オシでしょうか。でも、この場合は白2ノゾキから4ハイがいいところ。白aやbがあって、簡単に左辺で生きられてしまいます。これでは黒1オシの甲斐がありません」















局面図4
――黒が四隅を確保して、地合でリードしています。白はなにか紛れを求めなければなりません。首藤六段は局面図4、白1から戦機を求めました。
「白7切りが狙いですね。黒8、10はしかたない。白11から13はありがたかった。白15から中央黒は切り離されますが、左右の白がひどいダメヅマリですので、それほど攻められる感じはしません。上辺がきれいな地になっていますし、黒がだいぶ優勢でしょう。戦うのであれば白11で






変化図6
白1と切られる方がイヤでした。それでも黒8と動いていくつもりでしたが、実戦とは白のダメヅマリ具合がまるで違いますものね」
















局面図5
――その白のダメヅマリを井山八段は的確にとがめます。局面図5、黒1カケから7のワリコミがぴったりの手筋でした。
「いやあ、ここでやってしまうんですよね」
――黒11ワタリですね。
「そうです。じつは黒9ですでに中央の白一子を取れているものだと勘違いしていたんですよ。白12、黒13に続いて白16なら黒a、白aなら黒16で大丈夫だ、と。でも、白は14へハネてくるに決まってますよね! 白16ツギまで『またやっちゃった! ダメになったか』という気持ちでいっぱいでした」
――「またやっちゃった」ですか。冷静に見える井山八段といえども、こういうミスをするんですねえ。
「いやあ、よくやるんですよ、じつは。黒11で


変化図7
黒1としっかりツイで中央を生きてしまえば、はっきり黒が優勢でした。地合は盤面10目以上離れていますし、紛れる要素もありません」















局面図6
――局面図6、黒1からはあてのない放浪です。ともかく図体を大きくしてシノギのアヤを求めるよりない。
「すでにこの大石、生きるかどうかもあやしいですね。取られなくても相当攻められそう。もうこの碁は黒がダメになっているんですよ。黒9、11も苦し紛れで、白14に切られてはむしろ寿命を縮めたかもしれません。ただ、次の黒15ブツカリに白16、18と妥協してくれてちょっと望みが出てきたかな、と思っていました。






変化図8
本来、黒9では変化図8、黒1ハサミツケくらいのものなんですね。しかしそれは白6から8で出口が止まってしまいます。中央方面で二眼作るのは容易ではなく、これはダメでしょうね。














変化図9
また、局面図6の白16では、変化図9、白1が最強でした。黒2、4には白5とオサえてよく、中央左方の白とこの黒一団の攻め合いは白勝ち。大石のシノギの足しにはなりません。これも黒がダメそうです」














局面図7
――実戦は望みが出てきた、と?
「局面図7、黒4から10と左上白を取り込んで、かなり儲けました。とりあえず取るものは取りましたから、黒の大石と中央上方の白一団との攻め合い含みでシノげればなんとかなるかな、と。でも、それもどうやらうまく行きそうににはないんですよね」











局面図8
――局面図8、黒の大石は必死に下辺へと落ち延びていきます。どうやら、白からの決め手がいくつかあったようですね。
「このあたり、かえって大石の手数を詰めていますので、もはや上辺白との攻め合いも無理になっています。白2でも4でも、大石を丸ごと取りにこられていたら、黒がアウトだったでしょうね。それにしても、ぼくは本当になにも読めていなかった。白4ですでに大石のシッポが切れていることも気づいていなかったくらいです」
――だいぶ気持ちが追い込まれていたようですね。
「ひどいですよね。でも、白4から6と、半分取り込むだけで許してくれたので『これならイケるんちゃうか』って。なにしろ左上で儲けていますし。


変化図10
図の白2で変化図10、白1出から決められていたら、大石は助かりませんでした。黒6ツケにも白7ワリコミで切れています。
















変化図11
また、白4で変化図11、白1ノビでも黒にシノギはなかったようです。黒4、6には白5、7です。ちょっとややこしいのが黒8ブツカリ。白9と切らせておいて、左下の白一団と黒の大石との攻め合いを狙う意図です。しかし、結局、この下辺の黒二子がうまく連絡できないんですよ。黒10には白11アテ込みが肝心。黒12には白15ホウリ込みから17と外からダメを詰めてオイオトシですね。途中、うっかり間違えて白a抜きを決めてくれれば、こちらとしては助かるんですけれどね。黒取り返してダメがひとつ空きますから」




局面図9
――大石がなんとか助かって、碁は終盤戦へ。局面図9、白1とは手堅い。首藤六段は「黒二十子を取り込んでは、白が良くなったかと思っていた」そうですが。
「白1から11まで、右下の数子を捨てたのは冷静です。左下白がちょっと薄いんですよね。実戦の進行なら白からa、bのシメツケが利きますから連絡が厚い。










変化図12
白1で変化図12、白1ツギなら右下方面の白は助かりますが、黒2ハネがうるさい。左下の白一団が危険です。実戦の行き方は、最善だったのではないでしょうか。じつはこのあたり、ぼくはぼくで『黒がいいんじゃないか』と思っていたんですよ」
――首藤六段も井山八段もともに楽観していた。
「ところが数え直してみると、めちゃくちゃに細かい。半目勝負でした」








局面図10
――小ヨセにいたるも形勢不明。大盤解説会はたいへんな盛り上がりでした。局面図10、白1抜きがどうだったか、という羽根直樹本因坊の指摘がありましたが。
「そう、黒2、4のハネツギに回ることができては、黒半目勝ちが決まったようです。












変化図13
白1ならまだまだ勝負はわかりませんでした。黒4からのコウ争いがどうなるか。これは改めてきちんと調べてみないと結論が出ません。振り返ってみると、本当ににきわどい勝ちでした」

――これでグランドチャンピオン戦を連覇しました。さあ、次は世界戦ですね。全国のファンが期待しています、がんばってください。
「はい、応援ありがとうございます。国内戦ももちろんですけれど、まずはベスト16まで進んでいる韓国のBCカード杯、そして4月11日からの富士通杯。LG杯も本戦シードとなりましたので、この3つの世界戦が近い目標となります。ファンのみなさまに良い結果を報告できるようにがんばります!」

 
   
 

 

 

 

 

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